№551 晩夏の閉伊川、渓の花園、、。
少し早起きして宿の周りを散歩した帰りしな、赤い橋の上から川を見下ろしている二人の老人に会いました。
隣へ並びかけて真似て覗き込むと、水嵩が下がった閉伊川はこれ以上ない程に透明で、泳いでいる魚の姿が手に取るように見えました。
不思議なもので、誰かが橋の上から川を覗き込んでいると、大抵、通りかかった人もつられるものです。
いぶかしがることもなく気楽に話しかけてきた爺さんたちに、釣り宿に泊まっているよそ者だと直ぐに看破されました。
今日はどの沢に入るのかと訊かれ、まだ決まっていないと答えると、
“熊がどこにでもいるから気を付けな!”
と諭されました。
そして、二人はそれぞれ熊に襲われた経験を持ち、しかも背中にはその時の爪痕があるなどと、信じがたいことを言いました。
ゆっくりの朝飯をたっぷり時間をかけて味わった9時過ぎ、釣り宿の主人から勧められた初入渓の沢を目指して発車。
舗装道路を外れて悪路を2~3キロ走ってから3人分かれて入渓。
草叢を分け入った途端、漂う獣臭に思わず足を止め、腰の熊撃退スプレーを掴みました。
目の前の倒れている草叢の中に、いかにもビシャッとした状態のハンドボール大の異物がありました。
消化し損ねたような黄緑色の排泄物は湯気が立ち昇っていると思うほどに真新しい熊の落としものであることは一目瞭然でした。
爆竹を取り出して点火して渓に爆音を響かせました。
その後、しばらくは回りが気になって釣りに集中できませんでした。
やがて、突然、目の前にお花畑が現れました。

そこまでは左右には岩壁がむき出した急峻な山肌が迫る陽の届かない渓でしたが、渓は開けて陽射しが溢れて明るい景色に一変しました。
落差の大きな山岳渓流でも最上流域部はザラ瀬の穏やかな渓相になることは良く経験したものですが、
それとは少し事情が異なる風景でした。
数年前の台風による大水で荒涼とした風景になったのだろう河原一帯は、あたかも渓の花園、様々な草花が咲き乱れるお花畑です。

空に向かって突き立つように林立している一塊の樹には、この時季あるべき葉が無く、まるで白骨のような白い幹を見せている。
おそらく、土石流で幹が削れて傷つき、水を上げることができなくなってしまい枯死に至ったものだろう。

石ころと砂利で埋まった河原には、白や薄紫の野菊が無数に咲いている。
大自然の脅威と、それを乗り越える生命の逞しさを感じる風景でした。




フジバカマも咲いて。

白い花はヒヨドリソウのよう。

シソ科の植物?。
1

黒褐色の実を着けた草はどんな花を咲かせたのだろう?。

長いひげを付けたようなセンニンソウの実。

黄色い花を着けているのはキオン。

林床の草むらで咲いている橙色の5弁花はフシグロセンノウ。


変わり花が多く観られるという場所だけあってか、見事な白斑入りの植物もある?

河原の端の水辺にはトリカブトが群れ咲いている。
幾種類もあるといわれるトリカブトだが、ここのは総じて色合いが薄いようにも見える。




枝状に分岐させた花茎に薄色の花を多数着けるこのトリカブトはこの地方の固有種なのだろうか。
それともサンヨウブシの一種だろうか。
近年、地方によってはトリカブトが鹿の食害を受けているとも聞く。
おそらく、実際は無毒のサンヨウブシ類を食したのであろう。
が、トリカブト類とサンヨウブシ類の間には交雑種もあってややこしい。


渓流沿いや傍らの斜面に広がるカラマツ林の林床には、白いハケブラシのようなサラシナショウマが群生していた。
花は、花穂が分岐するものは花茎の先穂から元へ咲き進んでいるが、花穂だけ見ると、穂先から咲き進むものもあれば元から先へと咲き進む個体もある。





特に、カラマツ林の斜面の裾には夥しいほどのサラシナショウマが観られた。


そのカラマツの多くの幹には、胸ほどの高さまで幾筋もの引っかき傷が派手に付いていた。
どうしてこんなことをするのか分からないが、間違いなく熊の仕業だ。


黒くなったやや古いと思われる傷跡。

ヤニを漏出している真新しい引っかき傷。

そこにあった熊の糞は黒く、先に見たもの(画像はない)よりも古かった。

あの爺さんたちの背中にはカラマツの傷のような爪痕があるのだろうか?
今シーズンの渓流釣りは閉伊川釣行で幕を閉じた。
隣へ並びかけて真似て覗き込むと、水嵩が下がった閉伊川はこれ以上ない程に透明で、泳いでいる魚の姿が手に取るように見えました。
不思議なもので、誰かが橋の上から川を覗き込んでいると、大抵、通りかかった人もつられるものです。
いぶかしがることもなく気楽に話しかけてきた爺さんたちに、釣り宿に泊まっているよそ者だと直ぐに看破されました。
今日はどの沢に入るのかと訊かれ、まだ決まっていないと答えると、
“熊がどこにでもいるから気を付けな!”
と諭されました。
そして、二人はそれぞれ熊に襲われた経験を持ち、しかも背中にはその時の爪痕があるなどと、信じがたいことを言いました。
ゆっくりの朝飯をたっぷり時間をかけて味わった9時過ぎ、釣り宿の主人から勧められた初入渓の沢を目指して発車。
舗装道路を外れて悪路を2~3キロ走ってから3人分かれて入渓。
草叢を分け入った途端、漂う獣臭に思わず足を止め、腰の熊撃退スプレーを掴みました。
目の前の倒れている草叢の中に、いかにもビシャッとした状態のハンドボール大の異物がありました。
消化し損ねたような黄緑色の排泄物は湯気が立ち昇っていると思うほどに真新しい熊の落としものであることは一目瞭然でした。
爆竹を取り出して点火して渓に爆音を響かせました。
その後、しばらくは回りが気になって釣りに集中できませんでした。
やがて、突然、目の前にお花畑が現れました。

そこまでは左右には岩壁がむき出した急峻な山肌が迫る陽の届かない渓でしたが、渓は開けて陽射しが溢れて明るい景色に一変しました。
落差の大きな山岳渓流でも最上流域部はザラ瀬の穏やかな渓相になることは良く経験したものですが、
それとは少し事情が異なる風景でした。
数年前の台風による大水で荒涼とした風景になったのだろう河原一帯は、あたかも渓の花園、様々な草花が咲き乱れるお花畑です。

空に向かって突き立つように林立している一塊の樹には、この時季あるべき葉が無く、まるで白骨のような白い幹を見せている。
おそらく、土石流で幹が削れて傷つき、水を上げることができなくなってしまい枯死に至ったものだろう。

石ころと砂利で埋まった河原には、白や薄紫の野菊が無数に咲いている。
大自然の脅威と、それを乗り越える生命の逞しさを感じる風景でした。




フジバカマも咲いて。

白い花はヒヨドリソウのよう。

シソ科の植物?。
1


黒褐色の実を着けた草はどんな花を咲かせたのだろう?。

長いひげを付けたようなセンニンソウの実。

黄色い花を着けているのはキオン。

林床の草むらで咲いている橙色の5弁花はフシグロセンノウ。


変わり花が多く観られるという場所だけあってか、見事な白斑入りの植物もある?

河原の端の水辺にはトリカブトが群れ咲いている。
幾種類もあるといわれるトリカブトだが、ここのは総じて色合いが薄いようにも見える。




枝状に分岐させた花茎に薄色の花を多数着けるこのトリカブトはこの地方の固有種なのだろうか。
それともサンヨウブシの一種だろうか。
近年、地方によってはトリカブトが鹿の食害を受けているとも聞く。
おそらく、実際は無毒のサンヨウブシ類を食したのであろう。
が、トリカブト類とサンヨウブシ類の間には交雑種もあってややこしい。


渓流沿いや傍らの斜面に広がるカラマツ林の林床には、白いハケブラシのようなサラシナショウマが群生していた。
花は、花穂が分岐するものは花茎の先穂から元へ咲き進んでいるが、花穂だけ見ると、穂先から咲き進むものもあれば元から先へと咲き進む個体もある。





特に、カラマツ林の斜面の裾には夥しいほどのサラシナショウマが観られた。


そのカラマツの多くの幹には、胸ほどの高さまで幾筋もの引っかき傷が派手に付いていた。
どうしてこんなことをするのか分からないが、間違いなく熊の仕業だ。


黒くなったやや古いと思われる傷跡。

ヤニを漏出している真新しい引っかき傷。

そこにあった熊の糞は黒く、先に見たもの(画像はない)よりも古かった。

あの爺さんたちの背中にはカラマツの傷のような爪痕があるのだろうか?
今シーズンの渓流釣りは閉伊川釣行で幕を閉じた。
この記事へのコメント
閉伊川は泳いでいる魚が見られるほどの清流なんですね。
熊が出没するのはちょっと怖いです。
山野草が色々見られるのは素敵ですね。
トリカブトは地域差があるようですが、こちらより花色が薄いように見えます。
サラシナショウマの群生が綺麗ですね。
熊のひっかき傷がカラマツの幹について、どこかから出てきそうな気がします。出会わなくて良かったですね。
(#^.^#) こんばんは♪
熊の領域に踏み込んで緊張したのですが、遭遇したことのない釣友は”熊の写真を写せなくて残念だった~”、ですって。
渓流の日陰に育つトリカブトは淡色系が多いようですが、無毒のサンヨウブシかどうかを試す勇気はありません。
熊のひっかき傷だらけのカラマツは、ブナの幹に見るよじ登った爪痕とは別物で、すごい迫力でした。
自然の領域には野生動物の脅威がありますね。
人間には熊が怖く危険ですが、熊にしたら人間が怖くてパニックになって襲うのですよね。
人間と野生動物の住処は分けた方が良いのでしょうね。
無事に帰って来れて何よりですね。
(●^o^●) おはようございます 🎶
春の山菜から山女魚・岩魚に秋のキノコまで、野生動物の生きる領域へ入り込むので、当然に危ない獣や生物とも遭遇します。
面白くも不思議を体験することができる楽しい自然に身を委ねつつ畏れ、恩恵を感謝するばかりです。